たぶんサヨナラまたはハレルヤ

連作「たぶんサヨナラまたはハレルヤ」 成瀬悠太


恋文をワードで書いて保存してメールに添付して送ります

地下鉄のドアにはられた広告のシールを剥がしたくて見つめる

愛は食べものじゃないのとすれ違う度に諭してくれる先生

人はみなあんな姿で死ぬのかよ こんな姿で生きてくのかよ

好きじゃないことばかりした日々のこと 小声で告げたさよならのこと

初夏の汗ばむからだを持ち上げて共同墓地へ向かう日曜

N極とS極がくっつかないように支えています 星になれたら

枕元 積み上げられた本に置くつめ切りみたいに詩を思い出す

赤青と交互にひねりちょうどいい温度を探すのでしょう 今夜も

伝えたくないことばかり持ち寄ってコーヒーカップに沈むハレルヤ

ロックンロール

連作「ロックンロール」 成瀬悠太


なんとなく奇跡がおこる気がしてて春の川辺で道草をくう

真夜中を独り占めした今ならば書ける言葉もあるはずなのに

セックスやドラッグなんか知らなくて方程式をスムーズに解く

身体中心臓みたいにシンボルのない恋です いまはじめのいっぽ

僕なりに出した答えを刻みます 「ずっと友だちでいよう」の横に

覚えてる 伏し目にかかる前髪やグレープフルーツジュースさよなら

「役立つかどうかではなくどうやって役立てるか」と数学の辻

傘と木と街を打ちつけ夕立はロックンロールの音で跳ねてく

びしょぬれになってはしゃいで雨音をかきけすようにわらって サンキュ

水たまりに映った虹を蹴飛ばして跳んだしずくがまた虹になる