たぶんサヨナラまたはハレルヤ
連作「たぶんサヨナラまたはハレルヤ」 成瀬悠太
恋文をワードで書いて保存してメールに添付して送ります
地下鉄のドアにはられた広告のシールを剥がしたくて見つめる
愛は食べものじゃないのとすれ違う度に諭してくれる先生
人はみなあんな姿で死ぬのかよ こんな姿で生きてくのかよ
好きじゃないことばかりした日々のこと 小声で告げたさよならのこと
初夏の汗ばむからだを持ち上げて共同墓地へ向かう日曜
N極とS極がくっつかないように支えています 星になれたら
枕元 積み上げられた本に置くつめ切りみたいに詩を思い出す
赤青と交互にひねりちょうどいい温度を探すのでしょう 今夜も
伝えたくないことばかり持ち寄ってコーヒーカップに沈むハレルヤ
037:ポーズ(成瀬悠太)
手の甲を額に当てて左手を空にかざせば宇宙のポーズ
036:暑(成瀬悠太)
友人が3人結婚した夏です 残暑お見舞い申し上げます
035:罪(成瀬悠太)
阿には吽 罪には罰を 恋人に振られたぼくに燃える夕日を
ロックンロール
連作「ロックンロール」 成瀬悠太
なんとなく奇跡がおこる気がしてて春の川辺で道草をくう
真夜中を独り占めした今ならば書ける言葉もあるはずなのに
セックスやドラッグなんか知らなくて方程式をスムーズに解く
身体中心臓みたいにシンボルのない恋です いまはじめのいっぽ
僕なりに出した答えを刻みます 「ずっと友だちでいよう」の横に
覚えてる 伏し目にかかる前髪やグレープフルーツジュースさよなら
「役立つかどうかではなくどうやって役立てるか」と数学の辻
傘と木と街を打ちつけ夕立はロックンロールの音で跳ねてく
びしょぬれになってはしゃいで雨音をかきけすようにわらって サンキュ
水たまりに映った虹を蹴飛ばして跳んだしずくがまた虹になる