短歌
屋上の給水塔からグッドラック これから出会うすべての人へ(成瀬悠太)
その穴に落っこちてしまう小ささで生きてますでもまた這い上がる(成瀬悠太)
窓辺から見えない星に願いつつそっとアポロを口にはこんだ(成瀬悠太)
娘らはカカオの菓子を携えて 恋を信ずる聖者の行進(成瀬悠太)
黒猫と肩を並べて歩き出す なんだろ たぶんグッドモーニン(成瀬悠太)
銀紙をそっと剥がした板チョコの歯形がとても美しい夜(成瀬悠太)
初恋の相手は掃除のあいだ中ほうきでギターを弾く奴でした(成瀬悠太)
ジャン=ポール・エヴァンのチョコに込められた気持ちをどういうふうに量ろう(成瀬悠太)
虚無であることを謳えばなおさらに虚無となりゆく日本バンザイ(成瀬悠太)
ポケットに手をつっこんで合鍵の硬さを確かめている親指(成瀬悠太)
いろいろなものが降り止まない夜に置き去りにしたショートケーキは(成瀬悠太)
それは愛。春の海から這い上がり冬の夜空へ消えていくもの(成瀬悠太)
それじゃあね ただそれっきり 口下手が取り柄みたいな人だったけど(成瀬悠太)
錆び付いた鉄棒をさかあがりでのぼり ばかやろう沈む夕日の向こう(成瀬悠太)
真夜中を独り占めした今ならば書ける言葉もあるはずなのに(成瀬悠太)
赤色のとぐろを巻いたマフラーに首を絞められバス停に立つ(成瀬悠太)
初夢はホラーだったが明け方にかけてラブコメディに変わった(成瀬悠太)
愛なんていっぱいあるから置いといてそう映画でも見に行かないか(成瀬悠太)
触れられず触れずにひとりいることで季節に染まる僕の体温(成瀬悠太)
好きだった ポッケの中の星くずをそっと取り出すような仕草が(成瀬悠太)
しんこきゅううそつききずなななかまどどうくつつみききみが好きです(成瀬悠太)
凛とした空気が肌に冷たくて故郷の冬を思い出す朝(成瀬悠太)
朝顔が咲くベランダの向こうから街の寝ぼけたおはようの声(成瀬悠太)
犬猫がすきなあの子と畜生のように交わり更けていく夜(成瀬悠太)
ラブソングばかり一晩中歌い合ったあの子を好きじゃなかった(成瀬悠太)
花火からのぼる煙が目に沁みて花壇の縁に腰掛けている(成瀬悠太)
この恋の方程式は虚数解だと知りつつもあいを求める(成瀬悠太)
くずかごに吸い込まれてくひこうきも僕の想いが重かったのか(成瀬悠太)
覚えたての愛をぶんぶん振り回す 当たってしまった人ごめんなさい(成瀬悠太)
お別れはいつも突然やってくる 決まって振られるのが僕だから(成瀬悠太)